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理化学研究所ライフサイエンス技術基盤研究センター RIKEN Center for Life Science Technologies

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Interview CLSTのひとびと

動いているリボソームを、この目で見たい!

第2回は、タンパク質機能・構造研究チームの横山武司(よこやま・たけし)さん。小さなころから生き物好きだった横山さん。子どもの頃に抱いた疑問から「知りたい!」「見たい!」という好奇心が生まれ、いまの研究活動へとつながってきたようです。
横山 武司
タンパク質機能・構造研究チーム 研究員
2003年明治大学農学部卒、08年東京大学大学院工学系研究科 化学生命工学専攻博士課程修了。博士(工学)。08年に渡米し、Creative Biomedical Research Institute 及び Division of Translational Medicine, Wadsworth Center, New York State Department of Healthに所属。12年に帰国し、産業技術総合研究所バイオメディシナル情報研究センターを経て、13年より現職。

子ども時代の疑問が研究テーマに

——横山さんは、いつごろから研究に興味を持ち始めたのですか。

印象に残っているのは、小学6年生のときのこと。校舎の近くに古い甕(かめ)があって、中を覗き込むと大量のミジンコがいたんです。それを見て、このミジンコはどこから来たのだろう、とすごく不思議に思いました。その甕のなかで発生したのか、どこかから連れてこられたのか。周りには川も水源もない。大人になった今では、どこかから持ち込まれたものだろうと推測できるのですけど、そのときはわからなくて記憶に残っていました。その後、高校生になったある日、「自然発生説」を否定したパスツールの実験の話(註)を教科書で学びました。ミジンコを見たときの疑問と結びつき、生物学って面白い!と感じたのを、今でも覚えています。

 

インタビューに答える横山さん——「生きものはどこから来たのか」という問いに、小さい頃から関心があったのですね。

大学生になると、生命は何から始まったのか、太古の地球では何があったのかにも興味が広がりました。そんなときに出会ったのが「RNAワールド仮説」。遺伝情報を持ちかつ酵素のようにも働くRNAが「生命の起源」ではないかと考える説です。生命の持つ「遺伝情報」が「タンパク質」を構成するアミノ酸配列に変換される過程で重要な役割を担っているのが、タンパク質合成工場とも呼ばれる「リボソーム」。僕が大学生だった2000年、このリボソームの詳細な構造を解き明かした研究から、リボソームの中心骨格はRNAであること、そして遺伝情報からタンパク質への変換にはRNAが中心的な役割を果たしていることが明らかになったのです。つまり、リボソームのことをもっとよく知れば、原始の生命体から複雑な生命体へと至った過程に迫れるのではないかと考え、「これは気になる!これを研究したい!」と思うようになり、大学院からはリボソームの研究に取り組み始めました。

*パスツールによる自然発生説の否定
自然発生説とは、「生物は、親からだけでなく物質からも生じうる」という生命の起源に関する説で、キリスト教世界を中心に古来より信じられてきた。17世紀以降、肉眼で観察できる生物の自然発生は次第に懐疑的に見られるようになり、1862年のフランスのパスツールの実験によって微生物の自然発生も否定された。

「動かす」研究から、自分の目で「見る」研究へ

——大学院では、リボソームを使ってどのような研究をしていたのですか。

大学院では、リボソームの構造を改変して、人工的に機能を制御する研究を行いました。具体的には、細胞内を自由に動いて機能するリボソームにスイッチをつけて、特定の低分子が結合したときだけリボソームの機能をONに、結合していないときはOFFに制御できるようにするというのがテーマでした。細胞の中にある核酸などの生体高分子を改変することで、機械のように自在に制御することに一番興味がありました。

卒業後も同じように、RNAを改変して制御可能な分子をデザインする研究がしたいと思っていたのですが、なかなか研究を進める環境が見つからなくて。そこで、考え方を変えて、実際に目で見て「かたち」を細かく捉えることができれば、その変化の情報を使ってもっと細かく自在にデザインできるのではないか、そのためにはまず「見る技術」を学ばなければいけないと思いました。

 

——リボソームを「見る技術」には、どのようなものがあるのでしょう。

リボソームの細かな構造を最初に明らかにしたのが、X線結晶構造解析という技術です。この技術では、結晶化したタンパク質にX線を照射し、散乱したX線を捉えることで、タンパク質の三次元構造を明らかにすることができます。しかしながら、リボソームは一般的なタンパク質と比べてサイズが非常に大きいため、歴史的に結晶化は困難とされてきました。しかし、少しずつ技術が発展し、2000年に初めてX線結晶構造解析を使ってリボソームの詳細な形を捉えることに成功すると、リボソームの構造と機能を結びつける多くの発見がもたらされました。この結果は、2009年のノーベル化学賞の受賞につながっています(註)。このようにX線結晶構造解析は細かな形を見るのには適しているのですが、一方で結晶化されたリボソームは常に一定の形しか見せないため、細胞内のリボソームが本来みせるダイナミックな「動き」を観察するのにはあまり向いていないという弱点があります。

もうひとつの技術が、透過型電子顕微鏡。リボソームを観察しようとする試みはこの技術から始まりました。現在では、氷の中に閉じ込めた試料を電子顕微鏡で観察して構造解析を行うクライオ電子顕微鏡法へと発展しています。この技術を使えば、溶液中で動いているリボソームを凍らせて観察するため、凍らせる瞬間まで機能していたリボソームのダイナミックな「動き」を観察することができます。現在では、技術の進歩によって、X 線結晶構造解析並みに細かな構造を捉えることができるようになりました。

 

——実際に横山さんがリボソームを見るために使ったのは?

クライオ電子顕微鏡法です(写真)。当時クライオ電子顕微鏡による構造解析の分解能はまだまだ低く、より詳しく構造を明らかにするなら結晶構造解析だったのですが、当時の僕にはなんとなく電顕のほうがとっつきやすくて。ほら、コルクから細胞壁を発見したときに使われたのも顕微鏡ですよね。電顕なら顕微鏡の中に見たいものを入れればパッとかたちが見えるんじゃないかと思ったのです。実際のところは、生物学だけでなく物理の知識が必要であったり、熟練した職人技が必要であったり、そうそう簡単ではありませんでした。ただ、自分が作ったリボソームのスイッチが機能しているところ、動いているところをこの目で見たい、という気持ちが強かった僕にとっては、電子顕微鏡を選んだことは良い選択でした。

*リボソームの結晶化
リボソームの結晶化に世界で初めて成功したAda Yonath氏、X線結晶構造解析によってリボソームの構造を明らかにしたThomas Steitz氏とVenkatraman Ramakrishnan氏の3氏は、その功績によって2009年にノーベル化学賞を受賞しました。
クライオ電子顕微鏡と一緒に写る横山さん

文化的背景を超えて共感し合えた研究生活

——そうして「見る技術」を学ぶため、アメリカに行かれたそうですね!

就職先を探すなかで、ニューヨーク州にある電子顕微鏡施設に採用していただき、そこで4年間研究をしました。元々、海外で研究してみたいという気持ちがあって、アメリカはなんとなく怖いイメージがありましたが、実際に飛び込んでみたらとても自分に合った国だなと感じました。

研究所はニューヨーク州の北部にあって、冬は雪がものすごく降って気温が-20℃を下回ることもしばしば。予想外の田舎暮らしでした(写真)。州の研究所だったため日本人が全くおらず、日本語を話す相手は妻だけ。文化的に異なる場所での生活、研究はとてもいい経験となりました。

 

——アメリカでは、電顕でリボソームを「見る」ことに成功されました!成功までは、どのようなみちのりでしたか。

アメリカでの研究は、まず電子顕微鏡を自分で操作して、試料を観察できるようになる必要がありました。専門用語も全て英語で学び、大学院で習得した技術とは全く異なった分野で多少苦労しました。初めてリボソームの像を目にした時、大学院生の時から研究していた対象をようやく見ることができた時は、とても興奮しました!

 

——大学院までの研究とは違う新たなチャレンジ、不安はありませんでしたか?

不安は特にありませんでした。飛び込んでみないとわからないことってあると思うんですよね。想像つかないことってたくさんありますし。そもそも研究者人生は不確定なことが多く、将来どこで何をしているか、わからないことがよくあります。飛び込むのには少し勇気がいるかもしれませんが、想像つかないところで想像つかないような人と出会って、共感したり、まったく違うアイディアを知ったりしながら、自分自身も少しずつ変わっていく。それを繰り返すのが、おもしろい。だから、まず飛び込んでみるのもいいかなと思います。

  

——アメリカでの研究生活で、おもしろかったことがあれば教えてください。

研究所にはいろんな国出身の研究者がいて、文化的背景はひとりひとり違うのに、みんなリボソームに興味があってその話で盛り上がれるっていうのは、なんだかすごくおもしろかった。互いの文化的背景を超えて、共感し合えるものがあったんです。
早朝に屠殺場に行く仕事があったことも、おもしろかったことですかね。うちのラボには、ウシのミトコンドリアのリボソームを構造解析するプロジェクトがあって、人出が必要なときには僕もミトコンドリアの抽出作業に駆り出されました。

 

——わざわざ屠殺場まで行くのですか!

新鮮でなければ研究には使えないので、解体したてのウシの肝臓を取りに行かなければならないのです。出発は早朝。冬場だと屠殺場の近くは、すごく寒くて-25℃とかです。トラックに乗って1時間ぐらいすると、大平原のなかに木でできた小屋がぽつんとあって、それが屠殺場。小屋につくと、すごいアンモニア臭のなか、スタッフが華麗なナイフ捌きで死んだ牛のおなかをひらいて、内蔵を出し、その中から肝臓をくれるんですね。それを、州のお役人さんが病気などに罹っていないか確認して、最後にビニール袋に入れて渡してくれます。そこからは時間とのたたかい。すぐに処理をしないと試料がダメになってしまうので、外に持ち出してできるだけ早く小さなブロックに切って、ショ糖の入った液体に漬ける……という作業をするのですが、真冬だと肉がどんどん凍っていくんですね(笑)。寒さとのたたかいでもありました。

ラボに戻ってからも長くて、肝臓を切って、すりつぶして、布でこして、抽出された液体を集める、という作業が続きます。みんな僕には「どんどんやって!」と言ってくるので年に数回は手伝っていました。「日本では、これ生で食べるんだよー」とかジョークを言いながら(笑)。

アメリカの冬を体験する横山さん
ミトコンドリアの抽出作業をおこなうラボの同僚たち

真摯に考え続け、他者に理解してもらう

——現在、そして今後はどんな研究をしたいですか。

現在理研では、リボソソームを見るために始めた電子顕微鏡を使って、様々な試料の観察をしています。リボソームのことだけでなく、電子顕微鏡の技術的な面についても質問や相談を受ける機会が増えていて、今後は電子顕微鏡についてより深く学ばなければならないと考えています。

一方で、学生の頃からいくつかのテーマで研究をしてきましたが、心のどこかでずっと、電子顕微鏡を始めるモチベーションとなったリボソームのスイッチのことが気になっているんですよね。いつかその研究ができるように、そして少しでも研究を前に進めるために、努力を続けていかなければならないと考えています。

 

——研究をするなかで、大切にしていることはなんですか?

やはり一番大切なことは真面目に研究と向き合い、真摯に考え続けることだと思っています。特に研究者は、まだ誰も知らないことを対象に研究していますから、頭のなかで考えていることってその瞬間は本人だけのもので、本人しか理解できないものです。そうした思考の積み重ねで深めた考えを、他者にも理解できるような言葉で語れるようになると、その考えは大きく発展します。これまでにも、多くの人とのディスカッションの中で理解が進み、とても面白い!と感じたことが何度もありました。自分の考えを他者に理解してもらうのは、そう簡単なことではありません。でも、研究上の大きな発見というのは、簡単には理解されないような発想から生まれるのかもしれません。だから、自分も理解されないから諦めるのではなく、いろんな人に意見をもらって、自分が考え抜いた解釈に誤りや見落としがないか確認しながら研究を進めていくことも大事だと思っています。

インタビューに答える横山さん——最後に、これから研究者を志す学生の方に向けて、ひとことお願いします。

研究者は、不安定な職業で大変ではありますが、素晴らしい結果や、科学の面白さに触れた瞬間の興奮は何事にもかえられません!まずは、研究の世界に飛び込んでみたらいいのではないでしょうか。

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