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肝細胞癌選択的殺細胞技術

 

 

背景

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 日本における肝細胞癌(hepatocellular carcinoma)の年間死亡者数は約34,000人に上り、ステージIであっても5年生存率は70~80%と極めて予後不良である。肝細胞癌の主な臨床的傾向である高発癌率・高再発率の原因に関して、Field cancerizationという概念が挙げられる。肝炎ウイルスの持続感染やアルコル摂取などの発癌・環境要因によって、肝全体がひとつの“発癌フィールド”となり、多中心性に、また独立した形で複数の癌の“芽(クローン)”が発生してくる。したがって、1次肝細胞癌が見られた時点ではすでに肝内に高癌化状態にあるか、あるいはすでに癌化した顕微鏡レベルの細胞集団(クローン)が存在すると言われる。そこで、癌の早期診断や有効な治療法の開発にとどまらず、薬剤や栄養学的アプローチを用いて積極的に介入することで発癌のリスクを軽減し、発癌そのものや再発を予防する「癌化学予防(cancer chemoprevention)」が近年の癌の基礎的研究の分野で重要な課題となっている。我々のグループは、古くから知られる癌予防作用を有する食品(緑黄色野菜など)に多く含まれるビタミン類化合物(ビタミンA・ビタミンK2)に注目し、肝癌細胞の増殖を選択的に抑制する新規誘導体を開発し、抗癌剤の副作用軽減と抗癌効果を同時に達成できる癌治療・予防法の探索を目指す(図1)。

肝細胞癌選択的殺細胞作用を有する新規化合物の開発

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 ビタミンA類縁体の中で特筆すべきものは、現在第II/III相の臨床試験で肝細胞癌初回根治治療後の2次発癌の予防効果が検証されている非環式レチノイド(acyclic retinoid; ACR)である。非環式レチノイドは多価不飽和脂肪酸の一種で、環状構造を持たないイソプレン単位4個からなるポリプレイン酸である。非環式レチノイドは選択的に肝細胞癌の2次発癌の「芽」を肝から除出し、あるいは肝癌細胞の細胞死を誘導する。さらに、ACRのイソプレン側鎖末端のCOOH基をブロックしたメチルエステル体及びエチルエステル体を用いて癌選択的な作用を確認したところ、明瞭な細胞死誘導活性が認められなかった。ビタミンK2(VK2)はチーズや納豆などに多く含まれ、近年肝癌の予防に関与しているとの報告もあり、注目されている。VK2はACRと類似した構造を側鎖に持ち、細胞死誘導活性が見られず、側鎖末端にCOOH基を導入したVK2構造類縁体に肝癌細胞選択的な増殖抑制作用が認められた。これらの結果からCOOH基がACR及びVK2構造類縁体の肝細胞癌選択的殺細胞作用には重要な役割があることが分かった(図2)。

新規癌治療標的分子の開発への応用

 これらの新規化合物を活用し、より効果的な癌治療法の開発へとつながる新規標的分子の網羅的探索が行った。正常肝細胞Hcでは影響せず、肝癌細胞JHH7でのみ変動させた遺伝子をトランスクリプトーム解析による網羅的な比較検討を行った。その結果、癌遺伝子のMYCN遺伝子の抑制がヒットした。MYCN遺伝子はHc細胞ではまったく転写されておらず、JHH7細胞でのみ高い転写を受けており、その転写はJHH7細胞をACRやVK2誘導体で処理すると一過性にかなり強く抑制された。MYCNは肝癌治療の新規標的分子であることが示唆された。

参考文献

  1. Dual induction of caspase 3- and transglutaminase-dependent apoptosis by acyclic retinoid in hepatocellular carcinoma cells. Tatsukawa H, Sano T, Fukaya Y, Ishibashi N, Watanabe M, Okuno M, Moriwaki H, Kojima S. Molecular Cancer. 10, 4. PMID: 21214951 (2011)
     
  2. The effect of acyclic retinoid on the metabolomic profiles of hepatocytes and hepatocellular carcinoma cells. Qin XY, Wei F, Tanokura M, Ishibashi N, Shimizu M, Moriwaki H, Kojima S. PLoS One. 8(12): e82860. PMID: 24376596 (2013)


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